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SOPHOLAのVision(目指す世界観)、Mission(果たす役割)、Values(大切にする価値観)を体現する取り組み・アイデアを発信。
SOPHOLAの雰囲気がわかるような社員の日常や想いも更新していきます。

次世代トラッキング技術:キャンバス・フィンガープリンティング(Canvas Fingerprinting)

AppleがSafariブラウザーにITP(Intelligent Tracking Prevention)を搭載して、トラッキング防止を開始してから5年以上が経過しました。インターネット広告のターゲティングについて不信感や嫌悪感があるユーザーの気持ちを組んだ措置として大きな話題となり、他の主要なブラウザーを提供するGoogleやMozillaもこの動きに倣った対応をしています。例えば、GoogleのChromeでは2024年後半から徐々に3rdパーティークッキーを廃止していくと発表し、MozillaもFirefoxについては2019年には既に3rdパーティークッキーのデフォルトブロック機能をリリースしています。

このような主要なブラウザーの3rdパーティークッキーによるトラッキングからの脱却の流れを「クッキーレス(Cookieless)」と業界の中では呼んでおり、3rdパーティークッキーによるユーザー(ブラウザー)トラッキングを行ってきたアドテクノロジー企業にとっては非常に大きな変化となっています。(先読みしていた企業もいますが)その中で生まれたのが「フィンガープリティング」という新たなトラッキング技術になります。フィンガープリンティングは、「指紋を取ること」を意味しており、ユーザー(デバイス、ブラウザー)を特定するために使われています。複数の情報を元に「指紋」を取るのですが、主に利用する情報は以下になります。

  • デバイスで利用しているソフトウェアに関する情報(例:ユーザーエージェント)
  • デバイスのスペックに関する情報(例:スクリーンサイズ)
  • ネットワークに関する情報(例:IPアドレス)

ただし、あくまでこれらの情報を組み合わせて「指紋」としてユーザー(デバイス、ブラウザー)を推定するので、3rdパーティークッキーよりもユーザー特定精度が一般的に低いとされています。

フィンガープリンティング技術の1種であるキャンバス・フィンガープリンティング(Canvas Fingerprinting)は、上記の情報ではなく、画像生成を利用した特殊な方法によってトラッキングを行います。具体的にはHTML5で実装された「Canvas」という図形描画の機能を利用しています。Canvasで生成される画像(指紋)はコンピューターごとにわずかに変化するようで、生成された画像からユーザーを識別することが可能になっています。推定精度も非常に高く、99.5%ほどになるそうです。また、これまでのトラッキング技術では防ぐことができず、

  • 広告ブロックツール
  • ウェブブラウザー搭載のトラッキング拒否機能(DNT)
  • プライベートブラウジング
  • Cookieの削除/ブロック

などもこのキャンバス・フィンガープリンティング技術の前では無力になります。この技術によって、クッキーレス時代において失われつつある、パーソナライズされた広告やコンテンツが蘇るかもしれません。一方で、サイトオーナーがユーザーの同意を得ずにこの技術を利用している場合が多く、クッキー同意と同様の対策の必要性があると考えられます。実際に、国際的な人権NGOの「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、日本のZ会がSpider Labの提供するSpider AFを利用して、この技術を用いてユーザー特定していることを公表しています。以下、該当記事から一部抜粋します。

「ヒューマン・ライツ・ウォッチは、Z会が日本の子どもたちのウェブブラウザにこっそりこの画像を描き、指紋を採取しているのを観察しました。
web browser screenshot

このようなキャンバスフィンガープリンティングのスクリプトが2つ、広告主の意図する視聴者に確実に広告を見せることを専門とする日本の企業、spider.afによって、Z会のサイトに構築され、ローディングされていました。Z会とspider.afは、私たちのコメント要請に応えてくれませんでした。この技術の使用の背後にある意図や、それが組み込まれた製品によってどのように使用されているかを判断することは不可能です。しかし、(他企業も含めて)これら8つのウェブサイトはいずれも、キャンバス・フィンガープリンティングの使用をユーザーに開示していませんでした。そうすることで、これらの企業は、回避や保護が困難な追跡技術によって、ユーザーが目に見えない形で特定され、インターネット上を追跡されていることを事実上闇に葬っていたのです。」

2017年当時、Criteoは日本で最も成功したアドテクノロジー企業の一つですが、スーパークッキー(Supercookie、俗称:ゾンビクッキー)を利用していたことも日本ではあまり報じられることもありませんでした。こうした新たな技術に対する注意点や対策を講じつつ、テクノロジーを上手く活用していく必要があると改めて実感させられた記事でした!

SOPHOLA株式会社
創業者兼代表取締役
飯野 正紀